吉澤嘉代子「残ってる」について本気出して考えてみた

 

こんばんは、はるです。


本気出して考えてみたシリーズ第3弾
今回は、クリープハイプから離れて

吉澤嘉代子さんの「残ってる」を取り上げます!


わたしが吉澤嘉代子さんを初めて知ったのは昨年のことです。

芸人のバカリズムさんが原作・脚本・主演を務めた「架空OL日記」というドラマをみていると
流れてくるんです、彼女の「月曜日戦争」という曲が。

一度聴いたら頭から離れないメロディ
鼻にかかるような綺麗で優しい声
遊び心のある歌詞...

毎週聴いているうちにその中毒性にどんどんはまっていきました。


そしてこの前Twitterをしているときに
「残ってる」のMVが流れてきたのでなんとなく見てみたところーーー

「月曜日戦争」とのギャップ!
MVの切ない雰囲気と曲調!!
自分の状況や心境に重なりすぎる歌詞!!!

一瞬で射抜かれました。

切ない恋をうたった歌です。

 

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残ってる/吉澤嘉代子
作詞・作曲 吉澤嘉代子


改札はよそよそしい顔で 朝帰りを責められた気がした
私はゆうべの服のままで 浮かれたワンピースがまぶしい

風をひきそうな空
一夜にして 街は季節を越えたらしい

まだあなたが残ってる からだの奥に残ってる
ここもここもどこかしこも あなただらけ
でも 忙しい朝が連れて行っちゃうの
いかないで いかないで いかないで いかないで
私まだ 昨日を生きていたい

駐輪場で鍵を探すとき かき氷いろのネイルが剥げていた
造花の向日葵は私みたい もう夏は寒々しい

誰かが煙草消したけれど
私の火は のろしをあげて燃えつづく

まだ耳に残ってる ざらざらした声
ずっとずっと近くで 聞いてみたかったんだ
ああ 首筋につけた キスがじんわり
いかないで いかないで いかないで いかないで
秋風が街に 馴染んでゆくなかで
私まだ 昨日を生きていた

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ふわふわしたような、どこか切ないイントロから始まり
優しく呟くように、透き通る歌声が届きます。

"改札はよそよそしい顔で 朝帰りを責められた気がした
私はゆうべの服のままで 浮かれたワンピースがまぶしい"

擬人法が巧みに使われ、
言葉は少ないのに情景がぱっと思い浮かびます。

朝帰りしたときって、
たとえ何もやましいことがなくても
罪悪感とまではいかない、背徳感というか不思議な気持ちになりますよね。

いつもは無機質な改札も
今は「よそよそしい顔」で私を「責める」

きっとそう思うのは、
責められるような自覚が
私にあるからなのではないでしょうか。

似合うと思ってワンピースに袖を通した昨日
確かにそのときは浮かれていたのに、今はそれが「まぶしい」
対照的に私の気持ちは沈んでいることが読み取れます。

 

"風をひきそうな空
一夜にして 街は季節を越えたらしい"

「ワンピース」という言葉からもわかるように、この歌の季節は夏の終わり。

それが今は、こんなにも寒くて、冷たい。

季節は移ろうとしているのに、
私はまだ夏に取り残されたままなんです。

 

"まだあなたが残ってる からだの奥に残ってる
ここもここもどこかしこも あなただらけ"

1番サビです。

これまで情景描写がほとんどだったのに、
急に「あなた」「からだの奥」という生々しい表現が出てきます。

ここでハッとするのではないでしょうか。

なぜ改札によそよそしい顔で朝帰りを責められたのか。
なぜワンピースを着ておめかしをしていたのか。


想いを馳せていた彼との距離は縮まったんでしょう。
それが、望む形ではなかったとしても。

「からだの奥にあなたが残ってる」なんて表現
否応なしにそういう発想をしてしまいます。

 

"でも 忙しい朝が連れて行っちゃうの
いかないで いかないで いかないで いかないで
私まだ 昨日を生きていたい"

朝はすべてを白々と見せ、日常へと誘ってくる。

でも、昨日のことは
私にとって離したくない出来事。
まだ浸っていたいんです。

だから、
叫ぶように、懇願するように
「いかないで いかないで」と。

 

"駐輪場で鍵を探すとき かき氷いろのネイルが剥げていた
造花の向日葵は私みたい もう夏は寒々しい"

好きなひとに会いに行くとき
女のこは精一杯可愛くなる努力をします。

あなたのために塗ったネイルも、今は剥げている。

それは、昨日の出来事の激しさと
確実に時間が進んでいることを表しているのかなと。


向日葵の花言葉には

「憧れ」
「あなただけを見つめる」

という意味があるそうです。

さらに、
紫色の向日葵には「悲哀」
大輪の向日葵には「偽りの愛」

造花の向日葵って、切なすぎる比喩です。

 

"誰かが煙草消したけれど
私の火は のろしをあげて燃えつづく"

私の恋心は、激しく煌々燃えています。

それは今更、消せるはずもなく。

 

"まだ耳に残ってる ざらざらした声
ずっとずっと近くで 聞いてみたかったんだ"

ずっとずっと憧れだったあなたの声。

ようやく近くで聞けました。

 

"ああ 首筋につけた キスがじんわり
いかないで いかないで いかないで いかないで
秋風が街に 馴染んでゆくなかで
私まだ 昨日を生きていた"

声を近くで聞き
首筋にはキスをつけられた。

距離感の近さが伺えます。


歌の最後の言葉に着目してほしいのですが、

1番では「私まだ 昨日を生きていたい」
だったのが

2番では「私まだ 昨日を生きていた」
と言い切ります。

願望ではなく、断定。

確実に時は流れているのに

私は、まだ現実に戻ってこれていない。
昨日に取り残されたまま。


あなたの声やキスが、いや、あなた自体が
私の耳に、首に、奥に「残ってる」ように

私も、ひとりで昨日に「残ってる」

 

この歌は叶わない恋をうたった歌だと思うのですが、
その形は様々ですよね。

好きになってはいけないひと、不倫、浮気、セフレ、都合の良い関係...

不遇な恋愛は、この世界には腐るほどあります。

 

ここからはあくまで個人的な見解なんですが。


不遇でも、叶わなくても
それでも私は良いと思ったんです。

都合の良い関係でも、
彼女にしてもらえなくても、

あなたに近づくことを選んだ。

最初から割り切れていたかどうかはわかりません。
ちゃんと覚悟を持っていたかもしれない。

でも、あなたを知ってしまったら
もうその火は簡単に消すことはできない。

一度知ってしまったあなたという存在は

私に残り続け、蝕み、囚われ続ける。

 


この歌の巧いところは、

情景や心情がわかりやすく描写されながらも

直接的、限定的な表現を避けることで

個々人が、それぞれ自分に重ねて曲を聴けるところだと思います。


だから共感できるんですよね。


ずっとずっと、昨日を生きていたい

そんな夜なんて、
誰にでもあるのではないでしょうか。